テクノロジーで歪な業界を再構築するベンチャー
皆さん、こんにちは。
印刷業界という古い体質を抱えた業界に最後発として参入し、ITの力で最終消費者と稼働率の低い印刷工場を結び付けることによって、非常に安価で機動力のあるビジネスを構築したラスクルというベンチャー企業があります。
このラクスルが、今度は運送業界というやはりこれも古い体質を抱えた業界に参入し、「ハコベル」というサービスを展開し始めたようです。
このことについて、説明する記事が2016年6月号p22にありましたので、ご紹介します。
「ハコベル」もやっていることは、「ラクスル」と同じです。
トラックなどの輸送機と荷主をITの力で直接結びつけることでビジネスの効率性と効果性を同時に高めようとするものです。つまりは、物流版UBERなわけです。
UBERをご存じない方のために、少し説明します。
車を所有している一般のドライバーとタクシーに乗りたい人とをGPS技術を使用して直接結びつけるサービスで今、世界を席巻しているシェアリングエコノミーの代表選手のような企業です。
シェアリングエコノミーとは、既にある、物的・人的資産の配置を最適化することで、出来上がる新しいビジネスの概念です。現在では、スマホの驚異的な普及によって、ものすごく効率良く、シェアリングビジネスを構築することができるようになっています。
面白いことに、ラクスル社は設立時点では印刷業界にてスタートしましたが、そのときから自分自身のことを「印刷会社」として定義せず、「伝統的な業界×インターネット」というアプローチで様々な産業の在り方を変える会社として定義してきました。そして、今回ターゲットとした「伝統的産業」が運送業だったということです。
今回の記事で印象的だったのは、印刷業界と運送業界の違いです。
この二つはどちらも、慢性的に低い利益率で稼働する中小零細企業が多いという共通点がありますが、前者は供給が多くて需要が少ないのに対して、運送業界は需要が多くて、供給が少ないという全く逆の性格を持っているという違いがあります。
ではなぜ、運送業界は、需要が多くて供給が少ないという需要過多の状態なのに、利益率が低いという経済理論と合わない状況となってしまっているのでしょうか。
それが、下請けから孫請け、ひ孫請けという大変ひどい多重下請け構造だと著者は言います。
つまり、お客である荷主が払う報酬が、実際にトラックを運送する人に届くまでに、入り込んでいる階層が多いため極端に細ってしまうような構造になっているということです。
運送業界は印刷業界以上に業界の歪みが大きいと言えるため、ラクスルが考えたハコベルの仕組みは、より大きなインパクトを運送業界に与えられる可能性を秘めているということになると思います。
最後に、ラクスルの松本社長の運送業界に身を置く多くの中小零細企業に対するメッセージを書いておわりとします。
「まず、ハコベルの荷主は全て事業会社で物流会社はいません。中小の運送会社が下請けに甘んじているのは本質的な価値を荷主に提案できないからです。つまり、提案力が足りない。当社はその大手より良い提案をテクノロジーによって実践して、荷主を直接開拓します。」
すべての企業には、何よりこの意志が重要だと思います。